エマヌエル・バッハのチェンバロとピアノの為の協奏曲を大塚直哉さんと荒木紅さんのソロで。

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大塚直哉さんのチェンバロ、荒木紅さんのフォルテピアノボルツァーノ弦楽アカデミーの演奏でエマヌエル・バッハチェンバロとピアノの為の二重協奏曲を聴きました。

 

オーケストラの編成は弦合奏に加えてフルートとホルンが二本ずつとファゴット一本です。

 

控えめながらも上品にメロディを奏でられています。小粒に収まった優しげな感触で、演奏時間も20分に満たないです。

 

フォルテピアノはハープの様に流暢に淑やかなパッセージを弾き出しています。強弱の違いも多少付けていて、その楽器らしさをちゃんと出しているのです。それだけでなく、あっさりと華やげに音を紡ぎ出しているのです。

 

チェンバロの方は、ザラリとした音触りをしていながらも、フォルテピアノとの対比を演じ、雅で装飾たっぷりな趣味の宮廷貴族の様な品の良さを醸し出しています。通奏低音としてオーケストラにちょっとした音を添えていて、その楽器の個性も尊重しています。

 

この両者を無理に混ぜ合わせずに、二つの楽器のそれぞれの良さを重んじて伸びやかに演奏を大塚さんと荒木さんはしているのです。

 

管弦楽の方はと言いますと、ガツガツと行きすぎずに響かせずに柔和な響きで聴き手を和ませます。暖かき調和を重んじた古典派らしい音楽を奏でているのです。

 

ちなみに、この曲は1788年に作曲でエマヌエル・バッハは自身の亡くなる年に完成させました。当時の彼は74歳と高齢であった為、働き盛りの時の様な勢いはもう残っていなかったのです。それと、その6年前には弟のクリスチャンも亡くしていました。イギリス・イタリアで活躍したバッハ家の特異な存在だったとは言え、自分で世話した弟の死には悲しんだ事でしょう。

 

そんなピアノとチェンバロを同時起用した曲を作るにあたっては、エマヌエルが生涯愛着を持って使った両楽器への敬意を払う意図もあったのではないかと思われます。そうして自身の半生を振り返ると同時に、弟を偲ぶ意味も込めて彼の作風たるギザな柔軟性をこの二重協奏曲に取り込んだと言えますし、第一・第二楽章でその傾向が現れています。第三楽章では作曲者の個性である多感的な傾向を発揮、クセのあるリズムも遺憾なく発露しています。

彼の頃の協奏曲の分野では、管弦楽の一員として管楽器が導入され始めたばかりでした。しかも弦楽器の音に重ねるだけで、独立した旋律は無しです。しかし、この曲ではフルートが2本とも独自の旋律を担当する事もあり、時代の進みを感じさせました。

 

要するにこの曲は音楽家としてのエマヌエル・バッハの半生を凝縮させたものとなっているのです。

 

 

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